『中級から学ぶ日本語』『上級で学ぶ日本語』を読む

今の学校は、日本人外教はわたし一人。
わたしが来る前も、日本人外教は一人だけだった。

中国人先生が言った。
「前の先生はめったに職員室に来ませんでした。」
そりゃそうだ。行っても話し相手いないからつまらないもん。

形容動詞という品詞は困ったものだと思う。
まず「形容動詞」という名前がいけない。
まるで、黒い白馬、スリムなぽっちゃり体型、どＳなＭ嬢、セクシーな老婆と言われているみたいな気分だ。
形容詞なのか、動詞なのか、それともそのどっちでもないのか？
もちろんどっちでもないが、ものの様子や性質を表す品詞なので形容詞に近く、まったく動詞ではない。

『みんなの日本語』のように分かり易く“な形容詞”にせよ。

形容動詞は、言い切りの形が「だ」で終わるとされている。
（例）静かだ、穏やかだ、きれいだ・・・

ところが言い切りの「だ」（活用語尾）を取っても、語幹だけで単語として成立しているように思える。
（例）静か、穏やか、きれい

そんなわけで、おそらく日本でもっとも信頼されている国語辞典であろう『広辞苑』では、形容動詞の存在を認めない。
『広辞苑』の文法はわたしたちが学校で習う、いわゆる学校文法と同じではないのだ。

『広辞苑』では、「静かだ」「穏やかだ」「きれいだ」は、それぞれ、名詞に助動詞「だ」が接続されたものとしている。
だから、「静か」「穏やか」「きれい」は『広辞苑』では名詞である。

すると、学校文法との間に更なる問題が生じる。
学校文法では名詞は、助詞「は」「が」をつけて主語になると説明している。
（例）わたしは（が）、東京は（が）、静けさは（が）

ところが、「静か」「穏やか」「きれい」に、助詞「は」「が」をつけて、主語にすることはできない。
（例）静かは（が）、穏やかは（が）、きれいは（が）

学校文法では「静か」「穏やか」「きれい」は名詞に分類されない。形容動詞の語幹である。

前回の記事 “日本語教育能力試験対策 :「動詞」と「て形」” に対する、海南島の日本語教師さんのコメントが面白い。
もと国語教師（現役も）の中には、学校文法を絶対のものとして、ほかの文法を受け入れない先生がいるという。

『広辞苑』。天下の大岩波書店様の『広辞苑』。
日本人なら、ほとんどの人が知っている日本語の“権威”。
「『広辞苑』では、こう説明されている」
このセリフは、水戸黄門がふりかざす葵の御紋、女王様がふりかざす一本鞭(※注）と同じくらいの威力を相手に発揮する。

学校文法以外の文法を認めたくない先生は、学校文法と『広辞苑』の齟齬（そご）をどうやって自分の中で解決しているのだろう。
不思議だなと思う。

そして、やはり職員室には一人はこういった話しができる相手が欲しいなとも思う。

※注： 威力を相手に発揮させすぎると皮膚が裂ける。弱く肌にヒットさせても強い痛みをともなう上に、必ずミミズ腫れになる。よって一本鞭の使用は、技を極めた熟練者同士であることが条件となる。初心者は、ヒットさせたときに音が大きい、したがって聴覚的なインパクトは強いが、皮膚に対するダメージがほとんどないバラ鞭の使用から始めることが望ましい。

※補　足：「きれい（だ）」は、形容動詞（な形容詞）である。しかし語幹が「きれい」と「い」で終わるので、初級の日本語学習者は、形容詞（い形容詞）と混同して「きれくなかったです」という誤用が多い。
ところがこれ、日本人でも幼児の言葉を聞くと「きれくなかった」などと、同じ間違いをしていることが多い。つまり、就学前の幼児は、すでに形容詞の活用「かろ・かっ・く・う・い・い・けれ」の規則を全部知っている（こういう知識を暗黙知という）。そして、「“きれい”は“い”で終わるから形容詞」と一瞬に判断し、形容詞の規則を形容動詞の「きれい（だ）」に適用する。
誤用とはいえ、言語を処理する人間の頭脳ってすごいな。