2015.05.03 Sunday
MASSACRE 〜 メメント・モリ at 南京
1937年の南京をめぐる、わたしの頭の中の様々な断片
以下の記事中の写真には、その真偽をめぐって疑問が出されているものもある。それは知っているけど、注釈なしにそのまま載せる。
日本人にとっては歴史の真実でなくても、歴史の「事実」として、この記念館に展示されているものだからである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「メメント・モリ」は、パティ・スミスのアルバム『ピース・アンド・ノイズ』(※注1)の10曲目。
(歌詞の抜粋)
家へ帰る途中、ヘリコプターは炎上し、
ジョニーは決して家に戻ることはなかった
そして、人々は彼の名前を大理石に刻んだ
レイプされた娘、破壊された骨
魂は心から切り離される
あなたたちは記憶している!
あなたたちは死を記憶している!
わたしたちは記憶している!
すべてのことを
あらゆる批評を無効にする、パティのポエトリー・リーディングによる全ての戦争の犠牲者への悲痛な鎮魂歌。
2人の子を持つ母の祈りは強し。リスナーは10分34秒間、スピーカーの前で金縛りになる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1年生の授業。過去の経験「〜ことがあります」という例文をあげようと思って、「南京に行ったことがあります」とわたしは言った。いや、言ってしまったといったほうが正しい。
クラスには南京出身の子がいる。
「先生は、どこへ行きましたか?」
嬉しそうにきいてきた。まあ、そう来るよな。
「玄武湖を見て、夫子廟(ふしびょう)と南京虐殺記念館に行きました」と正直に言った。
何か言いたそうに、歴史とか教科書という意味の中国語を言っている。
言いたいことがあるのだけど、日本語でどう言うのか分からないのだ。
「中国語でいいから、ここに書いてください」と、言いたいことを中国語で書かせた。
日本の教科書に南京大虐殺の記述はあるか、という意味の中国語を書いた。
「もちろん、あります。日本人はみんな習います」
なるほど、中国人は「日本人は歴史を知らない」、「日本の教科書は正しい歴史を教えていない」と思っている。そういうことだ。それを、わたしは目の前で実体験として再確認したということだ。
歴史のどの断片を切り取り正史とするかは、時の権力によって恣意的に選択される。歴史(history)とは、彼(権力・勝者)の語る物語(his story ※注2)である。
二つの国があれば、それぞれで語り手がちがうから当然そこにずれや空白が生じる。
だから、一方の日本人も「中国人は歴史を知らない」、「中国の教科書は正しい歴史を教えていない」と思っている。
「あななたちは歴史を知らない」
中国、韓国の人たちが言う。同じ言葉を日本人が言う。
お互いの空白を非難しているんだから、いつまでも終わりはない。
お互いの空白を埋める努力があることも知っている。
でも、歴史認識が二国間で一致することってあるのだろうか?
ふとそう思う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深圳で一緒だったI先生にはオーストラリア人の恋人がいる。
村上里佳子に似た(と、わたしは思った)チャーミングな女性(ひと)だ。
南京に1年いた。たしか、恋人の仕事の関係だったような。
「南京って、町に反日的な、そんな空気はあるの?」
そう尋ねたわたしにI先生は即座にきっぱり言った。
「(そんな空気は)ゼロです。ないですよ」
そのときのI先生には、わたしの顔がバカに見えていたかもしれない。
南京(NANJING)。反日の怖い町ではない。中国4大古都の一つの美しい町だ。
上海から高速鉄道で約2時間。
見どころも多い観光都市・南京。
もっと日本人も来たらいい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」 (Erich Maria Remarque)
犠牲者の数が30万人だったのか、その半分以下だったのか、
それとも、それは通常の戦闘行為であり、虐殺の犠牲者は0人だったのかという話は、ここでは不問にする。
わたしには真実はわからないし判断材料もない。だから、結論を待つ以外、出口の見えないイデオロギー論争に付き合えないと思ってしまう。
メメント・モリ、死を思え。
統計上の数字に首を突っ込むより、一人の死という悲劇から、平和のことを考えたほうがいい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あるとき、この場所から大量の人骨が出てきた。調査によってこれらの人骨は南京大虐殺の犠牲者のものと判明した。
そして、建てられたのがこの侵華日軍南京大屠殺遇難同胞記念館である。
ここの万人坑(ばんにんこう)遺跡では、その大量の人骨の一部がそのまま保存され、入場者はそれを目の当たりにすることになる。
「厳粛にせよ」という注意があちこちにある。
瞑想室もある。ここは犠牲者の鎮魂の場でもある。
厳粛にせよと言われなくても、折り重なった人骨の山を見れば、死に畏れの気持ちがある人間なら誰だって厳粛な気持ちになる。
(南京大虐殺はすべて大ウソと言う人は、厳粛な気持ちになるかどうか知らない)
そんなところに、わたしは2回も行った。1回目は一人で、2回目はわたしを訪ねて中国にやってきたHさんと一緒に。
入場無料。南京の観光の目玉施設の一つだから入場者は多い。外国人の姿も目立つ。
南京大虐殺(Nanking Massacre Story)は、今日も世界に目撃されている!
入場口の前に、小さな中国国旗を売っているおばさんが何人か必ずいる。まるでタダで配っているような感じでそれを渡してくるけど、ちゃんとお金を取られる。
前に来たときは、黒人女性二人が旗を受け取った後、「お金がいるんだって」と言って、あわてて財布を出していた。
鬼子来了(the devil is coming)。
ここを訪れるれる人は、まず、犠牲となった南京市民の彫刻に迎えられることになる。日本人にはきつい。
Hさん、歴史とか政治については、ほとんど興味ない人だけど大丈夫かな。わたしの趣味でこんなとこ連れてきて。
そして、資料館へ。入り口で、ライターや飲み物は没収されるが、それほど厳格にやっているわけではない。Hさんはペットボトルを差し出した。
わたしは鞄の中にそれらを隠したまま入場した。
この資料館、ちゃんと見ると、とても時間がかかる。これでもか、これでもかと、次々歴史の「証拠」を出してくるから、1時間じゃ見切れない。
終わりかと思ったら抗日戦争一般の資料の展示が続くし。
こういう施設って普通は、興味がないと単調で途中で飽きてしまうものだけど、単調にならず、飽きずに最後まで見せる演出(ストーリー展開)もたいへんうまい。
まずは、南京大虐殺の非道を感情に訴えて、入場者の心を引き込み、そして徐々にそのトーンを犠牲者への鎮魂に変え、最後は世界の平和を訴える。
愛国教育の国家重点基地である。力の入れ方が半端ではない。
どのくらい時間がたったのか、資料館を出るとHさんは「中国人がこの事件をどう考えているかよく分かる。日本人はみんなここを訪れたらいい」と言った。
わたしは、Hさんの感想に「うん」と言いたかったけど言えなかった。
聞く耳を持たない人にとって、ここはウソで塗り固められた記念館でしかないことをわたしは知っているからだ。
(リンク先の記事について:無料の施設なのになぜ “娘は英語でチケットを買った”? 本物の人骨なのに “レプリカ” 。偏見はかように事実を見誤らせる。と言いたいけど、2007年以前のリニューアル前ということだから以前はそうだったのかな)
Hさんが、途中多数の死体や残虐行為の写真に気分が悪くなったということで、資料館以外はほかの建物には入らず記念館を後にした。
資料館と並ぶもう一つの見どころ「万人抗遺跡」なんかは、写真じゃなくて、本物の遺骨をたくさん見ることになるから仕方ない。
わたし、前に見たから、まあいいや。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1937年の南京で何が起きたのか、あるいは、通常の戦闘行為以外は何も起こらなかったのか。
アメリカの、日本の、そして中国の、計4人の監督が歴史の真実を明らかにしようとした。
『NANJIN』(南京) ビル・グッテンタグ監督、アメリカ・2007年
『南京の真実』 水島総監督 日本・2008年
『南京!南京!』(City of Life and Death) 陸川監督、中国・2009年
『金陵十三釵』(The Flowers Of War) 張芸謀監督、中国・2011年
いずれも日本では一般ロードショウ公開はされていない。なるほど、この国は国内に波風を立てる不都合なことは、政府が規制しなくても、ちゃんと国民が自ら蓋をしてくれる。
こんな日本人の「高い民度」は、中国政府には大変にうらやましいだろうな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
資料館の「結び」の言葉をそのまま転載する。
「歴史は鏡であり、歴史の教訓を忘れてはならない。
侵華日軍南京大虐殺という歴史的事実は、戦争は人類文明にとって大災禍であること、戦争は蛮行を生み出し、人間性を絶滅させる野蛮な行為であること、侵略と虐殺は必ず被害民族に災難をもたらすということを証明した。
われわれは国が弱けれは(※ママ)侵されるということ、巣がひっくり返れば割れない卵はないということ、国家が侵略されれば、人民は災禍に遭うという歴史の教訓を、永遠に忘れてはならない。
愛国主義の旗を高く掲げ、自ら励んでやまなく、未来を開拓し、中国の特色のある社会主義を建設するために、また、祖国の統一を実現し、世界の平和を守るために努力しなければならない。
戦争を遠ざけ、平和を愛し、調和のある世界を作るために、奮闘しよう!」
『地球の歩き方』(ダイアモンド・ビッグ社)の「日本軍の蛮行とされる行為を知らしめるための記念館」というリード(見出し)は、「反日国家・中国」という偏見を強化する、犯罪的なまでの誤りである。
広島、長崎の記念館がそうであるように、ここも他国の蛮行とされる行為を知らしめるための記念館ではない。(↓ 記念館出口側にある「平和」の女神の像)
ここは1937年の南京で起きた事件の犠牲者の鎮魂と、世界の平和(中国語の平和は“和平”)を祈念する施設である。
資料館には、日本人自らの手によって歴史の真実を明らかにしようという、誠実な取り組みがされていることも、情景再現で紹介されている。
もちろん、このような行為を“売国”という人たちもいる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その出自が、マッチョなアメリカにレイプされて産まれたとはっきりとわかる、ちょっと、いや、かなり怪しい日本語の日本国憲法前文。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼・・・お人好し? 諸国民は平和を愛していない? 世界に公正と信義はない?
でも、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」なら、この国はお人好しを貫いたほうがいい。
お人好しを貫くことを潔しとしない政治家がいるから、いつまでたってもお隣が「謝罪せよ」と怒鳴り込んでくる。そう、わたしは思っている。
メメント・モリ。死を思え。平和を願う普通の国民、人民は、政治やイデオロギーとは別のところで戦争の犠牲者を思い、平和な未来を語ったほうがいい。
こう言うと、やっぱり平和ボケしたおめでたい左翼って言われるのかな。
いいんだよ。ジョン・レノンだって、「みんなは言うかもしれない、君は夢想家だと。でも、(それを夢見るのは)自分一人じゃない」(IMAGINE)って歌ってたしね。
戦争をしたくない平和ボケした夢想家が世界を覆えば、戦争はできなくなる。
この国の歴史を見よ。戦(いくさ)は、もうこりごりだと、260年間もの間、平和ボケ(ほめ言葉)した天下泰平の時代を過ごすという、世界でもまれな誇らしい歴史がある。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昨年(2014年)習近平政権は12月13日を「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」とした。そして、この場所で大規模な記念・追悼行事を実施した。
12月13日からの2、3日はずっとこの式典の様子がニュースで流される。
中国人にとっての日本の政治家の靖国参拝と同じくらい、日本人にとっては挑発的だ。
そっちがやるなら、こっちだって。相手を刺激すると分かってやっている。分からぬはずがない。
困った人たちだな。
☆ ☆ ☆ ☆
この記事を読んだ人の中には、
「中国共産党に完全に洗脳されている。中国の言う“平和”は、口先だけのウソだって気づかないなんて、バカじゃないか」
と思っている人もたくさんいるのだろうな。
でも、いつまでも違う土俵で一人相撲するんじゃなくて、相手の土俵に乗り込んで、相手の言う「平和」をいったん受け入れたうえで、そこからガチンコ勝負する勇気(yes...but)が今は必要じゃないかな?
日中関係がこんだけこじれているんだから。
いや、別に安倍ちゃんに言っているんじゃないよ。
「中国の言う“平和”は、口先だけのウソ」と言うネトウヨに言っている。
南京大虐殺はなかったといった本を1冊や2冊読んだくらいで、これが南京大虐殺の真実です、南京大虐殺はありませんなんて記事を書いているネトウヨに言っている。
歴史の事実の検証のうえに、イデオロギーまでのっかって(邪魔して)、邪馬台国論争以上にややこしいんだから、そんな簡単に真実を言えないだろうに。
でも、このブログにネトウヨな読者はいないから、全然反論のコメントはこない、と思う。
※注1: このアルバムの3曲目「1959」はチベットのことを歌ったものだ。この地での動乱が最高潮に達したこの年、ノーベル平和賞受賞者でもあるあの人はインドへ政治亡命した。
※注2: historyの語源はhis story。実は根拠のない民間語源ということだ。
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