2015.02.06 Friday
日本人はなぜ英語が話せないのか(その2)
■ 小学校3年生英語必修化に断固反対する
「日本人はなぜ英語ができないのか」の2回目である。
文部科学省は東京オリンピックに向けて2014年から英語教育改革をはじめる。その改革案では小学校3年生から英語教育を始めるということだけど、これは断固阻止の声を上げなればいけない。
中国では2001年から小学校3年生からの英語教育を始めている。また、北京・上海・天津では小学校1年生から基本的に100パーセント英語教育を行っている。
それで成果はというと、一般の中国人の英語力は日本人以上にひどい。
英語教育は早いうちに始めたら成果が上がるというというのはあまりに単純すぎる。非科学(臨界期仮説)でありアホである。
わたしが中国人に日本語を教えていて実感するのは日本語を習得する能力が高い学生は外国語以前に母語、つまり中国語での思考能力、学習能力が高い学生である。
小学校3年生というと論理的な思考力が急速に伸びていく時期であり、抽象的な概念を言語によって操作する一歩を踏み出す時期(※注2)である。高度な思考のための基礎をつくるきわめて重要な時期なのだ。
母語、すなわち日本語での教育がきわめて重要な意味を持つその時期に、やっても成果の上がらないダメな授業を受けさせるなどとは、児童にとって時間の無駄であり害こそあっても何も得るものはない。
この時期は英単語を覚えることにあまり意味はなく、漢字や熟語をより多く覚え、日本語での思考能力を高めるほうがその後の知性にとって極めて重要なのだ。
外国人教師からみた日本の英語教育の問題点という記事がある。
外国人教師が言っている。
「クソみたいな教科書をクソみたいなネイティブが校閲してる。授業で使えって言われた教科書は7歳児が書いたみたいだったし、本当に校正してんのかってクレームの手紙を送ったよ」
「1000時間のうち、いったいどれぐらい英語を聞いたり話してる? ほとんど日本語に訳したり、日本語で説明してるよな。これじゃ子供は一生英語で考えることはできないよ」
ここでの外国人教師の発言はどれもわが意を得たりと思うものばかりである。
要するに、クソみたいな教科書を使ってそれを日本人教師が日本語で教える。だから日本人は英語が話せない。
外国人が書いた教科書(※注1)を使って外国人教師が英語で教える。そうしないと日本人はいつまでたっても英語は話せないと思うのだが・・・。
■ 外国人に日本語で日本語を教える 〜直接法
「中国で日本語を教えています」と言うと、「中国語できるんですか?」と聞かれることが多い。
「できません」。
「えっ? どうやって教えるんですか? 英語を使うんですか?」
とだいたいこういう展開になる。
英語を使って日本語を教える。そんなことをしたら学生は日本語以前に英語を猛勉強しないといけない。日本語どころではなくなる。
日本の町の英会話学校を考えてほしい。講師は全員外国人を売りにして、教室内は一切日本語禁止にしている学校も多いではないか。
海外で日本語を教えるのに、その国の言葉ができる必要はない。
中国の学校は教師の応募資格として「中国語力不要」としている学校がほとんどであり、中には「むしろ中国語はできないほうがいい」という学校も(珍しいのだが)ある。
この学校はきっと、かつて中国語ができる先生が来て、中国語で授業をするものだから学生の日本語力が伸びなかったという苦い経験があるのだろう。
中国語で授業をするのなら中国人教師で事は足りる。何のための日本人教師かということなったのだろう。
濰坊で一緒だったY先生は中国語はわかるくせに、学生の前では一切そのそぶりは見せず、学生が中国語で何か言うと、必ず「中国語は分かりません。日本語で話してください」と日本語で言い直させていた。
さすがである。
わたしなんか中国語は超初心者レベルで日本語教師としても未熟者だから、学生の言う中国語が理解できるとうれしくて即返答してあげてたけどね(今でも)。
さて、外国人に日本語を使って日本語を教える。これを「直接法」という。
日本人が英語ができない理由の一つはほとんどの日本人が直接法で英語を学んだことがないからである。
といっても、中学校から始まってずっと日本人の先生に日本語で英語を習っていた大多数の人には、日本語のわからない外国人に日本語で日本語を教えるというのは、まったく想像ができないだろう。
以下直接法の実際を具体的に説明しよう。
■ 直接法の技法
教える内容は以下の2つ。
[1]代名詞(これ・それ・あれ)
[2]これは何ですか? それは○○○です。
要するにWhat is this? This is a pen. である
会話主体の日本語教科書ではだいたい1課で挨拶を学び、2課でこの文型を学ぶという構成のものが多い。
まだ日本語を習い始めて間もない学生に、日本語だけを使って日本語を教えるのである。
なお、鉛筆や時計などの名詞は前回までの授業ですでに習っており、全員が知っているものとする。
もちろん、平仮名とカタカナは学習済みで、全員が読み・書きができる。
また、実際には、複数の例文を示すとか、それぞれの指導の間に発音練習や代入練習(「これは○○○です」の○○○のところにいろいろな言葉を入れる。「これは」の部分を「それは」「あれは」に置き換えるといった練習のこと)を挟み込んでいったり、指導の際の細かいテクニックがあるのだがそれは省略する。
【授業:STEP1】
先生は鉛筆を持つ。
↓
そして言う。「これはえんぴつです」
↓
黒板に「これは えんぴつです。」と書く。
↓
鉛筆を手に届きそうだが届かないところに置いて指さして言う。「それは鉛筆です」
↓
「それは えんぴつです。」と黒板に書く。
↓
鉛筆を遠くにおいて指さして言う。
「あれは鉛筆です」
↓
「あれは えんぴつです。」と黒板に書く。
↑こんな感じのイラストも黒板に描いてやる。
いろいろ細かい部分は省略して骨格の部分だけを取り上げたが、これでクラス全員が「これ・それ・あれ」の3つの代名詞と「これは○○○です」は中国語の「这是○○○」で、「それ(あれ)は○○○です」は中国語の「那是○○○」である(※注3)と理解する。
失敗したことはない。
【授業:STEP2】
次の「これは何ですか?」に進もう。
あまり勘の良くない学生のところに行く(※注3)。その学生の机の上にある鉛筆をさして「これは何ですか?」と言う。
↓
期待通り学生は??となるので、再度「これは何ですか?」と言う。やはり学生は?である。
↓
黒板に「これは 何ですか。」と書いて発音する。
↓
「これは 何ですか」の板書の下に、「これは えんぴつです。」と書いて発音する。
ここも細かいテクニックは省略して骨格の部分だけを取り上げたが、これで日本語の「何ですか」は中国語の「什么(英語のWHAT)」であること、そして、「これは何ですか?」と言われたら、[1]で学習した「これは○○です」の文型で答えればよいことを理解する。
【授業:STEP3】
[1]と[2]の内容を繰り返し練習してクラス全員に徹底させたら、すこし応用をする。
「これは ○○語で 何ですか?」(※注4)という文型を教える。
そして、「先生、これは日本語で何ですか?」という質問をさせる。
すると学生は次々いろいろな物を手にして「先生、これは日本語で何ですか?」と質問してくる。授業は100パーセント盛り上がる。すべったことはない。
逆に「これは中国語で何ですか?」と学生に質問することもできる。そして学生の中国語をこっちが繰り返す。学生と先生の立場が完全に逆転する。わたしが上手に発音したら、学生は「おおっ!」という反応をしているし、下手なら笑いながら「違う違うこう発音するんだ」とばかりに唇の動きを見せたりしながら、わたしが上手に発音できるまで繰り返して発音してくれる。
授業はヒートアップし200%盛り上がる。
このヒートアップしたところでちょうど授業が終了になるようにすれば、「今日は楽しい授業だった」という印象を学生に与えて授業を終えることができる。
ほかにも「これは ○○語で 何ですか?」を使って盛り上げるネタがあるのだけど教えない。企業秘密だ。
こうやって授業中は中国語は一切使わず、学生に日本語を日本語を使って教える。
そして学生は日本語に慣れ、実用的な日本語を身に着けていく。
日本人教師の役割は、日本語を習う学生に徹底的に日本語を聞かせ、そして日本語を使わせることである。
中国人先生はこれができない。(※注6)
日本人の先生に日本語で日本語を習う。このメリットはいくつも挙げることができるし、実際効果も大きい。
だから、例え中国語ができても、「中国語はわかりません。日本語で話してください」という態度を貫くY先生は100パーセント正しい。
ところが、中国語ができる先生の中には、直接法で日本語を教えるというスキルがないのか、中国語ができることがうれしいのか、中国語を使って授業をする先生がいる。
それではあなたの中国語は上手になっても、学生の日本語の力はつきませんよ。あなたは日本語を教えに来たんですか? それとも自身の中国語力を磨きに来たんですか? と嫌みの一つも言ってやりたくなる。
まあこういう人はやっぱり自身のブログのプロフィールにも「現在の資格はTOEIC705,新HSK5級,日本語教師養成講座420時間修了」などと、うれしげに資格を並べていたりする。
※注1:中国で出版されている中国人が書いた日本語の教科書は問題が多い。日本語教師LIFEセンセーは分析能力がないから、中国の教科書は誤字・脱字が多いなどと言っていたが、誤字・脱字の問題ではなくもっと根本的な日本語力の問題があるのだ。このあたりは日本で使われている日本人が書いた英語教材も同じ問題を含んでいるので、また回を改めてこの問題について書こうと思う。
※注2:これに合わせて学校の勉強も抽象度が上がり難しくなる。小学校4年生にもなると学校の勉強についていけなくなる児童が多くなるのはこのためである。
※注3:日本語の指示代名詞は距離によって「これ・それ・あれ」と3つに分けるが、英語は「this・that」の2つ。中国語も英語と同様「这・那」の二つだけ。
※注4:勘が良くコミュニケーション力の高い学生の場合、授業の流れ(文脈)を読み取って「これはえんぴつです」と正解を言う可能性が高い。ここはクラス全員に、「えっ? 先生は何といったの?」「何を答えればいいの?」という疑問を持ってもらい、そのあと教師が種明かしをして学生の疑問を解くという流れのほうが印象に残りやすくなり良い。ちゃんと教育の心理学的効果を考えているのだよ。
※注5:「これは ○○語で 何ですか?」は日本語として不自然。「これは○○語で何と言いますか」のほうが自然な日本語だと思う人がいると思う。確かに。しかし、この課の狙いは、あくまでも「これは何ですか」「これは○○○です」の文型を教えることであり狙いが外れる。それに「何と」は「疑問詞+と」、「言いますか」は「動詞+か」であり新しい文法を導入しないといけなくなるのでやはり授業の狙いから外れる。さらに「何と言いますか?」と聞かれたら「○○○と言います」と答えなくてはいけないと、完全に授業の内容がここで学習すべきこととずれてしまう。
このように初級の日本語の場合、文法上の制約からやや不自然と感じられる日本語が例文として出されていることがあるが、その数は大変少ないし学習が進めば「何と言いますか」という言い方も学習するので問題が生じることはない。
※注6:できない理由は中国人先生の日本語力に問題があるからはない。中国人同士なのに日本語だけで授業をするというのがあまりに不自然で非効率だからできないのである。
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