中国に絵葉書はない　　　　　　　　from 大阪 JAPAN

2015.02.20 Friday

術語集～気になる社会主義核心的価値観（１）

「手紙」は中国語ではトイレットペーパーの意味であり、「飯店」は中華料理店ではなくホテルのこと。
このあたりは中国語を習ったことがない人でも知ってます。
極端な例ですが、同じ単語でも中国と日本では意味が違います。

吉本隆明という大変有名な思想家がいました。
今では思想家というより、よしもとばななのお父さんとしてのほうが有名なのかもしれません。
その吉本父さんは、あるとき「国家」のイメージがアジアと西洋では全く違うことに気づきました。
すなわち、アジア的な国家観では国家を国土という実体があり国民のすべてを包み込む袋のようなものと捉えるが、西洋では国家を、現実の社会の上につくられた制度であるあると捉えるというわけです。
ということは、アジアの人間と西洋の人間が「国家」というものを論じたとき、両者は同じ「国家」を論じているように見えて、実は全く異なったものを論議していることになるわけで、吉本父さんはこの国家イメージの違いに「青ざめるほどの衝撃」を受けたそうです。
あんまりびっくりしたので、びっくりした勢いで『共同幻想論』（初版は1968年・河出書房刊）という本を書きました。

　

2012年１１月に開かれた中国共産党第18回全国代表大会において提議された社会主義核心的価値観（社会主義の中核的価値観）。
ここに掲げられた１２の言葉は、町を歩いているとホントにあちこち、いたるところで目にします。

スローガンが書かれた看板から離れ、ようやく目にしなくなったと安心していると、フツーのお店の電光掲示板にも出没したりするのでまったく油断もスキもあったものではありません。
　
　
「社会主義核心的価値観」は３つの層からなる１２の項目にまとめられています。
　第１層は国家に関わる項目：「富強」「民主」「文明」「和諧」
　第２層は社会に関わる項目：「自由」「平等」「公正」「法治」
　第３層は公民個人に関わる項目：「愛国」「敬業」「誠信」「友善」

「人民在信仰、国家才有力量（人民が信仰を持てば国家は力を有する）」だそうで、湖北省の武漢市が、12項目からなる「社会主義の核心的価値観」の暗唱を全住民800万人に義務付けようとしているというニュースも伝わっています。
武漢市民は「何でやねん」と心の中で思い、武漢在住ではない中国人民は「ここが武漢でなくてよかった」と心の中で思っていることでしょう。

「社会主義の核心的価値観」について言及した中国在住日本人のブログをチェックしてみました。
当然のごとく評判が悪いです。
「ないものねだり」
「つっこみどころ満載」
「なにも実現してないからこんなことを書く」
「ひとつひとつの言葉にモヤモヤした気持ちになってしまう」
等など・・・。

社会主義核心的価値観に掲げられた１２の言葉に日本人が違和感を覚えるのはなぜなのでしょうか？

わたしは、これらの言葉のほとんどが日本語にも存在しているからではないか。
ところが、基本的な中国語、マルクス・レーニン主義、中国が言う「特色ある社会主義」（※注）、毛沢東思想、鄧小平理論、これらの基本的知識がないまま、中国語であるこれらの言葉に日本語の意味や概念をあてはめ解釈しているからではないかと疑ってみたのです。
これらの言葉を日本語や西洋資本主義の概念に当てはめて考えてはいけないのではないか？

「国家」という言葉がアジアと西洋では全く違ったイメージで捉えられているように、もう一つの側面からこれらの言葉を解釈してみると社会主義核心的価値観に掲げられた１２の言葉は、実に正しく中国の進んできた道とこれから進むべき道を表していると理解できるかもしれません。

中国には好好学習、天天向上という言葉があります・・・ありました（ほとんど死語化している）。
　

そこで次回は、社会主義核心的価値観に掲げられた１２の言葉を皆さんと一緒に学習したいと思います。
好好学習、天天向上。乞うご期待。

　　　
↑ 只有社会主義才能救中国, 只有社会主義才能発展中国（社会主義だけが中国を救う、社会主義だけが中国を発展させることができる、Central Industrial Arts College・1989）

※注： 中国の特色ある社会主義の道（japanese.china.org.cnから引用）
中国特色社会主义道路
中国特色社会主义道路，就是在中国共产党领导下，立足基本国情，以经济建设为中心，坚持四项基本原则（坚持社会主义道路，坚持人民民主专政，坚持共产党的领导，坚持马列主义、毛泽东思想），坚持改革开放，解放和发展社会生产力，建设社会主义市场经济、社会主义民主政治、社会主义先进文化、社会主义和谐社会、社会主义生态文明，促进人的全面发展，逐步实现全体人民共同富裕，建设富强民主文明和谐的社会主义现代化国家。

中国の特色ある社会主義の道とは、中国共産党の指導の下、基本的な国情に立脚し、経済建設を中心に４項目の基本原則（社会主義の道、人民民主専制、共産党の指導、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想）を堅持し、改革開放を堅持し、社会的生産力を解放し、発展させ、社会主義市場経済、社会主義民主政治、社会主義先進文化、社会主義調和社会、社会主義エコ文明の建設、個々人の全面的な発展の促進、全人民の共同富裕を徐々に実現し、富強、民主、文明、調和をかなえた社会主義現代化国家を建設することである。

【補足】『術語集―気になることば』（中村雄二郎著・岩波書店新書）