2015.03.29 Sunday
「くじらの構文」のラビリンス(迷宮)でありんす
日本語のセンセーなどという仕事をやっていると、なぜ日本人は英語ができないのかという理由が良くわかるような気がします。
1年生の授業です。
「朝、何を食べましたか?」という質問に、ある学生がこう答えました。
「肉まんじゅうを食べました」
肉まんじゅうでも意味はわかります。しかし、日本人なら「肉まん」のことを、ふつう「肉まんじゅう」とは言いません。
「何を食べましたか?」の質問に「○○を食べました」で答えたことを褒めたあと、「肉まんじゅう」ではなく「肉まん」と言いなさいと訂正しておきました。
学生のノートを見ると肉まんじゅう、肉まんじゅうなどと、何度も書いて覚えた跡があります。
そして、中国人先生が使っている教科書をチェックすると、ありました「肉まんじゅう」。
中国語の「肉包(子)」は、ふつう日本語では「肉まん」と言う。
そんなことを知らない中国人の先生は教科書の記述をそのまま教えたわけです。
日本人の先生なら、「肉まんじゅう」の表記を教科書に見つけたたら、すぐ「肉まんじゅう」ではなく「肉まん」と覚えるようにとすぐ訂正するはずです。
わたしが今の学校で教えていて悩まされる問題の一つが教科書の出来が悪いということです。
わたしの学校では上海交通大学出版社から発行されている教科書を主に使っています。これら教科書は、主に中国人の先生が執筆・編集したものです。
今2年生で使っている会話の教科書は編集担当として、中国人の先生にまじって、ここでは、後のことは分かりませんが、ここでは名前は伏ますがAという日本人先生の名前が載っています。
中国人の先生が書いた日本語教科書の問題点は、
1.中国語の影響で、日本語ならふつう平仮名で表記する言葉を漢字で表記する。
2.文法レベルで誤った日本語や、不自然な日本語が多い。今や死語となった言葉もよく出てくる。
3.カリキュラムや編集が綿密・緻密でない。そのため教える内容に飛躍が多い。
4.日本の文化・習慣に対する無理解などのため、通常考えられないような会話が出てくる。
1は具体例をあげなくても、どういうことか理解できると思います。「狐饂飩」って一見して何か分かりますか? まるで中国の料理名みたいです。(答え:きつねうどん。中国にも饂飩と書く水餃子のような料理がある)
2も理解できると思います。
↑ この画数が3画の「き」は書かせないでほしい。日本人は必ず4画の「き」を書くように指導されるのだから
↑ 空手! いいえ、柔道です
A・T先生には編集担当として、もっと校正をがんばるようにお願いしたいです。(A・T子先生の名誉のために言っておくと「狐饂飩」と写真は別の教科書)
3と4は具体例をあげなくては、どういうことか理解できませんね。
3は、例えば「手紙を書きます」「電話をかけます」の学習以前に、「手紙を書いています」「電話をかけています」という表現が出てくるといった問題。
これは I write a letter.を習う前に I'm writing a letter.が出て来ると言えば問題点を理解してもらえるでしょう。
また、学習内容と練習問題が一致していないということも多いです。これも例えば、I'm writing a letter. をその課の要点として教えたのに、練習問題は「be動詞+動詞のing形」を使わない問題が殆どであると言えば理解してもらえると思うます。
学習項目がとにかく整理されていない。
教える側としては非常に教えにくいですし、学生にとってもあまりに無駄の多い学習を強いるものです。
4は、今使っている教科書にこんな会話があります。中国人留学生が中村先生の家を訪ねたという場面です。
陸 : この家はどのくらい古いんですか。
中村: もう50年以上になるね。
王 : この床に敷いてある畳も古いですね。
中村: ええ、そうです。
「この家はどのくらい古いんですか」がまず不自然な日本語です。
ごく普通の民家に対してこういう聞き方は普通しません。
「この床に敷いてある畳も古いですね」って、「この床に敷いてある畳」も分かりにくい日本語です(要するに「この畳」?。日本人なら畳の前に、わざわざ「床に敷いてある」という言葉は普通はつけない)。
問題は次です。「畳も古いですね」これ褒めて言っているんでしょうか?
畳は消耗品です。古い畳に価値はありません。人のうちを訪ねて「この家の畳は古いですね」なんて、畳屋さんかリフォーム業者くらいしか言いません。「この家の畳は古いですね」という言葉は「そろそろ畳を買い換えなさい」を意味します。
日本の文化(畳)に対する理解が浅いために、相手の気分を害する可能性の極めて高いセリフが出てくるのです。
こんなことは、日本人であるA地・T子先生しか気づかないことだと思うので、、赤地智子先生にはしっかり原稿を読んで校正してもらいたかったです。
これを読んでいる日本語の先生には、「わたしの使っている教科書にはこんなトンデモ日本語が出てくる」というのがあったら教えてほしいです。
みんなで、笑って楽しみましょう。って笑いごとではないんですけどね。
日本語の教科書は日本人の執筆・編集したものでないと使えません。
「使えません」という表現が極端にしても、中国人の先生がつくった教科書は、ムリやムダが多あまりにも多く非効率であり、教える側・教わる側双方に多大な負担を強いるのです。
(それに中国の教科書は「ない形」「て形」…ではなく、いまだに「未然形」「連用形」という日本の学校文法で教えている。日本人のための学校文法は外国人には複雑で負担が大きい)
わたしたちは、ほとんどの場合日本人が書いたテキストで英語を学んでいます。
上記の2、4の問題は、日本人の書いた英語のテキストにも同様の問題を含んでいることが容易に想像できます。
日本で使われている英語の教科書を見た外国人教師は一様にこう言います。
「ひどい」
「ネイティブはこんな言い方はしないよ」
「これ、シェイクスピアの時代の英語だね」
そして、ムリやムダが多いあまりにも非効率な学習を強いてというのも日本の英語教育にそのまま当てはまります。
悪名高い「くじらの構文」(=A whale is no more a fish than a horse is.)なんていうのは英語の偏差値50以下の生徒も覚えなければならない重要構文なのでしょうか。
クジラの構文が理解できないのは、日本人が日本語で考えている限りきわめて正常です。
「馬が魚でないのと同様にクジラも魚ではない」なんて、「no more 〜 than」なんていう構文を使わなくても A whale is not a fish.It is same as a horse is not a fish.(←正しいですか?)で、ニュアンスはやや異なるものの、同じ内容のこと言えるじゃないですか。
こういうのは、英語の偏差値60以上でムズカシイことを教えられることにマゾな喜びを感じる英語マニアな生徒と、受験を背景に生徒に“英語は努力”を押しつけることにサドな喜びを感じるマニアな先生のお互いの趣味が一致して初めて成立する世界です。
「これは大学受験でもよく出される重要な構文です。よく復習して覚えなさい。今度の期末にも出します。いいですか期末にも出しますよ」なんて脅すから英語嫌いが増えるのです。
そして。使えない知識としての英語だけが頭の中に増えていく → 使える知識としての英語が、使えない知識の英語の中に埋没する → 結局、英語が話せなくなる。
こういうサイクルが完成します。
日本語教師は、外国人に日本語を教える際「使えない知識としての日本語」は徹底的に排除しているはずです。
そうしてますよね?
日本語を教える際に大切な文法事項は、実用的(使用頻度)が高いかどうかであって、受験に出されるかどうかではありません。
「“くじらの構文”は偏差値60に満たない人は覚えなくてもいいです。no more 〜 thanという馬やクジラが出てくるタチの悪い構文があるということを覚えておく程度でよろしい。今度の試験にも出しますが配点は低くしておくので、ムリにくじらの構文の復習なんかせずにほかの基本の構文をしっかり復習しておいてください」でいいではないですか。
英語マニアでない生徒にとっては迷惑ですし、特に偏差値が50に届かない英語嫌いの生徒に取っては拷問のレベルです。拷問を快楽に変えることができるのはマニアだけの特権です。
ところで、A whale is no more a fish than a horse isという英語を無視して、「馬が魚でないのと同様にクジラも魚ではない」っていう文を純粋に日本語としてみた場合、ちょっと不自然な日本語だと思いませんか?
わたしなら、「くじらが魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ」あるいは文を分けて「馬は魚ではない。それと同じでクジラも魚ではない」と言いますが。
しかし、この構文の理解を防げているのはだいたい元の英文が良くなくて、クジラ、魚、馬を取り上げるから哺乳類のクジラとと魚が混乱して余計難しくなっているわけで、「I am no more a queen than you are」、つまり「わたしが女王様でないのと同様に、あなたも女王様ではない」とすれば余計な生物の分類を考えなくていい分、すっきりするような気もするしますが、どちらも女王様でないとすればプレイは成立しないわけですから、これも都合が悪いかもしれませんし、どちらも女王様でないということは、二人は女性でありレズビアンの関係なのかと考えられますし・・・。
「あのぉー、きょう習った“くじらの構文”ですが、考えれば考えるほどますますわけが分からなくなってきたんですけど・・・」
「“あのぉー”じゃないでしょ。“先生様”とお呼び!」
「はぁ〜?」
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