2013.03.16 Saturday
中国人実習生 〜 広島の彼のこと
彼は、はたして「実習生」なのだろうか、「研修生」なのだろうか?
朝日新聞は「実習生」。局はわからないがテレビを見ると「研修生」の用語が使われていた。
ウィキペディアから引用すると、「2010年7月1日に出入国管理及び難民認定法 が改正され、生産活動などの実務が伴う技能習得活動は技能実習制度に一本化された」わけであり、実習生という用語を使うのが適切である。
「ただし、在留資格としての“研修”は廃止されず、座学など実務が伴わない形での技能習得のみが認められる資格として存続する」わけであるから、工場などで働きながら技能の取得を目指す場合はやはり実習生でなくてはならない。
カキ加工場で働いていた彼は「研修生」ではなく「実習生」である。
マスコミが用語を誤る。
この一件でも、外国人実習生の実態が世間一般に知られていないことがよく分かる。
日本での実習希望者はまず、日本の企業に採用されることが先である。たいてい日本から企業や組合の人がやってきて面接するのだが、書類審査だけで採用を決定する会社もある。
大丈夫か? 他人事ながら心配になる。
採用が決定した実習候補生が培訓中心(訓練センター)に入学して寮に入り約4か月、日本語を中心に日本の文化・習慣を学習する。
日本に行ったら最初の1か月は日本語と生活・習慣についての研修を受ける。
彼は「礼儀正しく、仕事場やスーパーなどで会っても“お姉さん方、おはようございます”と、腰を折って深く頭を下げてあいさつしてくれた」(朝日新聞・夕刊)そうだから、培訓中心でかなり礼儀作法をたたきこまれたことがわかる。中国は「腰を折って深く頭を下げ」るようなあいさつの作法はない。
呼びかけに「お姉さん方」というのは不自然な日本語だし、お辞儀の仕方も馬鹿ていねいさが抜けてないのは、彼が通った培訓中心には日本人の教師がいなかったのかもしれない。
中国人教師から、日本人は礼儀正しいから必ず腰を折って深く頭を下げてあいさつをしなさいと、教え込まれたのだろう。
わたしがいた培訓中心の実習生は、山東省の田舎の出である。家族、両親と一緒に暮し、両親はたいてい農地を持っている。工場などで働きながら。2000元くらいの給料をもらい、自分の農地で取れたトウモロコシや麦を主食にしてつつましく暮らしているというのが日本へ行く前の実習生たちの平均的な姿である。
ほとんどの実習生が、日本へ行く志望動機に「日本へ行って、お金を稼いで生活を豊かにしたい」と答えている。
「技能を高め、指導的な立場で祖国の技術の発展に寄与したい」などといった回答は見たことがない。
わたしが見た彼ら・彼女らの印象は一言で言えば「素朴」である。
山東省以外に出たことがない子もたくさんいる。列車に乗ったことがないという子もいる。
日本に行くことができるというのは彼ら・彼女にとって、あえて露骨な表現をすれば、金がすべての、夢であり未来の希望である。
We're Only in it for the Money(フランク・ザッパ)。
わたしの夢がかないますと、彼ら彼女らはみな言う。
富士山と桜を見たいですとも言う。
そんな夢と希望、家族の期待で胸いっぱいにして、彼ら、彼女らは日本へと出発していく。
わたしがいた、培訓中心の実習生が住む寮の環境は劣悪だった。
いかにも社会主義中国といった昔ながらの古いアパート、つまりは一般庶民の住むアパート(※注1)を借りて寮としているのだが、ここに10数人を詰め込む。
暖房や冷房も冷蔵庫も洗濯機もテレビもない。10数人の実習生に対しトイレ・シャワーは1つだけである。
濰坊は夏は暑く冬は寒い。夏場などは暑さで夜寝れなくて、みなぐったりしていた。
日本ならあまりの環境の劣悪さに裁判沙汰だろう。
台所も油まみれの不潔さ。
そして、日曜日を除き、自習を含めて朝は7時半から夜9時まで培訓中心で毎日勉強する。
お金がないものだから生活は質素を極めている。「肉は高いから買いません」と言い、毎日マントウと1品か2品のおかずで腹を満たしている。
寮生活の間、たいていの実習生は自然とダイエットできてしまい体重が減少するというメリットもある。まれに太る実習生がいるが、これもストレスで過食気味になっているのかもしれないので笑えない。
でも、そうやって頑張る彼ら彼女らの姿はたまらなく愛おしい。
彼ら、彼女たちは日本に行ってどんな職場で働くのだろう。
わたしはいつも、彼ら、彼女らがが働く会社をインターネットで調べていた。
従業員10人以下という会社も多い。日本人は社長と、事務・経理の奥さんのみであとはみな外国人実習生という会社もある。
日本の若い人が就職したがらない、地味で根気のいる仕事。しかも都会から離れた不便な地方の会社。
彼ら彼女らが赴任するところは、ほとんどがこんな会社だ。
あるベビー用品専業の会社のHPには、「生地作りから全て日本国内で行っています。生まれてすぐに着る肌着は安心・安全な日本製の肌着を」とあった。
確かに国内生産だろうが、国内生産を底辺で支えているのは中国人実習生であることは消費者には分からない。
中国人実習生が日本にやってくるのが金のためなら、日本の会社が中国人実習生を雇うのも金(人件費削減)のため。
ためしに「外国人実習生 人件費」と入力して検索してみるとよい。日本の会社が、国際貢献と国際協力の一環といった崇高な理念とは全く関係なく安価な労働力として実習生を利用している(※注2)ことがよく分かる。
日本へ行った、彼ら彼女から電話を貰う。
「日本人は優しいです」「親切です」。
これが、わたしが実習生からいちばん聞きたい言葉だ。
夢をいっぱい持って日本に行った彼ら彼女らが、日本人の心ない言葉や態度によって失望に変わってしまうとしたら、あまりにもお互いのために不幸だと思う。
彼ら彼女らが生まれ育った環境とはまるで違う日本。
よきにつけ、悪しきにつけカルチャーショックは大きいはずだ。
そんな彼ら彼女の心を救うものは周囲との良好な人間関係しかない。
わたしも単身中国の、しかもほとんど日本人のいない、地方の会社で働いていたわけだから、これは他人ごとではなく自分の身に引き寄せて理解できる。
日本へ行って、失踪してしまう子がいる。
わたしが教えた実習生にも日本へ行って失踪した子が複数いる。
これが、九州のとある食品加工会社に集中している。送り込んだ実習生が次々失踪する。高級なハムやソーセージを製造しており、神戸や東京のデパートにも出店している。
ここは、実習生たちを賃金の安い労働力としか見ていないようで、実習生たちは社内で差別的な扱いを受けているといったたぐいの噂、実習生の不満をよく聞いた。
社長らの態度が高飛車。この会社には実習生を送りたくないとY先生も言っていた。
さて、朝日新聞の夕刊によると彼は「社長との関係に悩んでいた」「毎日怒られ、馬鹿にされている」と言っているらしい。
このカキ加工場の社長は「厳しい一面もあった」。「温和な性格」という知人の男性の声もある。
ふつうに考えて、自分の仕事に誇りを持っている人ならだれでも「厳しい一面」を持ち合わせているだろうと思う。ましてや社長なのだからいっそうそうであろう。
であれば、社長が彼に取った態度は日本のどこの会社にでもあることだったのかもしれない。
彼は、日本語が不自由で周囲から孤立していたらしい。
妻子を本国に残し単身でやってきた彼。
作業場の上で暮らしていたということだから、心が解放されることはなかったろう。
わたし、外国人実習生に対するメンタル・ケアというものが非常に手薄ではないかと以前から気にかかっていた。
仕事面で日本人従業員と同様の働きを期待し、叱責する社長。
日本人と中国人では仕事に向かう姿勢が全く違う。
一言で言えば、日本人は会社のために働くが、中国人は信頼を寄せる上司のために働く。彼と社長の間に信頼関係がなかったことは明らかだ
さらに面子を重視し人前で怒られることを非常に嫌う中国人の国民性。
心と心だけでなく、文化と文化もぶつかり合う。
朝日新聞・夕刊の記事中にある外国人実習生がおこした殺人事件の犯人は、みな中国人実習生。
なぜ?
わたしが思うに、中国が開放改革により外国との交流が当たり前になってまだ30年ほど。つまり、フィリピンやタイ、韓国の人に比べ、中国の一般の人は、異文化に対する適応能力が他国に比べかなり低いのではないか。
実習生の出身地は、ほとんど外国人を見かけることのない田舎であることが多い。
そこで異文化と個人が決定的に衝突したときの対処法が悲劇的な方向にむかってしまう。これが理由のひとつではないか。
もう一つは、なんといっても他国に比べ中国人実習生の数が多いというのも関係あるだろう。
チャイナリスクとやらで、最近日本の会社は中国ではなくタイ人実習生へとシフトしてきているらしい。
中国に対するバッシングや偏見がますます広がりそうな気がする。
ところで、「3年間の実習を終え、だいたいいくらぐらいお金を持って中国へ帰るの?」と中国人先生に聞いたことがある。
答えは、300万円ぐらいということだった。
1年あたり100万円、約8万元
1か月あたり8万3333円、約6666.6元だから、彼らにとって中国の3か月分以上の給料の額が1か月で貯金できるわけである。
彼ら彼女らは、10万から15万円くらいの給料で、徹底した節約生活をしながら金をため中国へ帰る。
※注1:日本でいえば市営団地を想像してもらうと良い。社会主義政策で個人の持ち家というのが認められていないため(土地もそうだけど使用権はあるが所有権はない)、都市部の住民の多くが公営のアパートに住む。日本の場合、老朽化した木造住宅の密集地(かなり言葉に気をつけているのだけど、分かるかな?)の再開発は住宅を壊しそこに低額所得者向けの公営の団地を建てる。中国の町の風景は、この、再開発された公営団地群の光景に似ている。
※注2:記事中の残業代が時給300円というのは、過去にかなり問題になった出来事だ。実習生が日本の事情に疎いことを悪用してこういう契約を結んだりする会社があった。リンク先の記事は2008年と、出入国管理及び難民認定法 の改正前のものなので、現在は改善されているはずである。ちなみに濰坊のケンタッキー・フライドチキンのアルバイトの時給は8元から10元くらい、つまり日本円にして100円位らしい。純朴な実習生は時給300円なら中国の3倍もらえると思ってしまうわけだ。
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