2015.07.11 Saturday
我が最愛の常州市武進区湖塘老街ノスタルジア 〔改〕
〔改〕写真と文章を追加しました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
上海から南京にかけての地域を江南という。
江南水郷といって、町の中を運河がたくさん走っているのが特徴だ。
運河とそれにかかる古い橋。そして向こう側に開放改革中国を象徴する高層建築群。わたしが常州でいちばん好きな、つまり我が最愛の湖塘老街の風景↓。
常州市内には明の時代につくられたという立派な石橋も残っている。それに対して、この湖塘老街の名もない橋 (※実は名前があった。湖塘橋) の簡素なこと。
いかにも地域の老百姓(※中国は一般庶民のことを老百姓という)のための、といった佇(たたず)まいが大変に好ましい。
海南島さん、「我が最愛の」が「話が最愛の」になってまっせぇ。
武進区の吾悦広場は、カルフールがありユニクロと無印良品が仲良く向かい合い、吉野家もある(残念ながら閉店した)ので、常州在住日本人にも人気のショッピング・スポットだ。
湖塘老街は、そんな吾悦広場と道一つ隔てたところにある。
運河沿いにも開放改革と格差を象徴するような光景は当然のように見られる。
湖塘老街。「老街(ラオジエ)」の名前の通り、このあたりは開発が遅れて、清朝や民国の時代の建物がたくさん残っている。
老街にいくつかある公衆トイレは、もちろんすべてドアのない、そして便器がなくて溝があるだけのニーハオ・トイレである。
橋のたもとにある小さな古びた建物には査証の文字がある。今ではすっかりさびれた老街だけど、昔は外国の船が来て交易していたのか?
前近代的。
不衛生。
でもそんな老街が発する魅力は、つまりはそこで生きる素朴な老百姓の魅力なのだろう。
食堂に入る。普通、外国人はこんなところにある食堂には入らない。
日本人ということがわかると、時に店員のむき出しの好奇心の餌食になってしまう。
「工作(※ゴンゾー。仕事のこと)で来たのか?」
「うん、仕事」
「一人で来たのか? 老婆(※ラオポー。嫁さんのこと)は一緒じゃないのか?」
「離婚したから一人」
「仕事は何をしているんだ?」
「日本語教師」
「工資(※ゴンズー。給料のこと)はいくらだ?」
本当に中国人はこの質問をよくする。
「多くないよ。5000元くらい」
「日本語を教えてくれ。ニーハオは何というんだ? シェシェは?」
わたし、一度だって日本人であるという理由で中国人から、不快な、あるいは乱暴な扱いを受けたことはない。
わたしのステキな人柄のおかげであることは間違いない。なぜ誰もそう言ってくれないのだろうか。
開放改革の光と影。影は光が強ければ強いほど濃くなる。
道はまっすぐ北へと続く。
そして老街はやがて廃墟に入り込む。
常州の武進区政府はこの湖塘老街を再開発して、観光地にしようと計画している。こんなふうに↓。
常州市の役人は、マーケティング調査がずさんなまま巨額の金を使って施設を造るという悪い癖がある(※これ、常州だけじゃないような気もする)。たいへん金をかけた巨大な建物・施設なのに完成後、利用されぬまま廃墟になっているところがあちこちにある。
湖塘老街のすぐ隣にも暇日広場というところがあり、そこには、それは見事な超高層のツインタワービルがあるのだが、利用されることはなく見事に無人の廃墟と化している。まだ築5年くらいしかたってないのではないかと思える新しいビルなのに。
湖塘老街の再開発は大丈夫なのか。そう思うのはわたしだけではあるまい。
湖塘老街をそのまま北へ歩くとやがて京杭大運河に行きつく。
そう、今から約1400年前に隋の煬帝 (※小野妹子から「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す、恙無しや」から始まる国書を受け取って激怒した人) が完成させた、北京と杭州を結ぶ総延長2500キロメートルに及ぶ大運河である。
この世紀の大土木工事に徴発された人民の困窮ははなはだしく、やがてそれらの不満は各地で農民の造反を招き、隋はわずか30年で滅亡してしまう。
無名のまま一生を終える老百姓のささやかな暮らしがそのまま投げ出されている湖塘老街の道は廃墟を通り抜け、そして絶大な権力を持ち後世にまでその名を残した皇帝が完成させた大運河にいたる。
開放改革の中国から、中華民国、清を通り抜け、はるか隋の時代へのちょっとした歴史散歩。
パール・バックが描いた『大地』の物語が、今もまだここにも生きているような気がした。
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Comments
海南島です。お久しぶりです。記事の間違いのご指摘、ありがとうございました。さっそく修正に参りたいと思います。▼写真、文章。う、美しい! なんという美しさだ。私が一番好きなのは、後半、ガラス戸に電話番号が紙に書いて貼ってあり、その向こうで老人がうつむいて何かを待っている(考えている)写真。他の写真も、本当に素晴らしい。廃墟は廃墟ですばらしいではないか。「つまりはそこで生きていた老百姓がすばらしいということ。」全く同感であります。マーケティングしないでの開発、海口でもさかんです。完成と同時に廃墟になって行きそうな建物もあります。つまり誰も生活しないということでしょう。▼運河も、橋も、美しいですね。この橋の上に立ってみたい。すばらしい記事をありがとうございました。
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実に興味深い写真ばかりです。本当に美しいです。
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海南島の日本語教師様、上大岡の美容室 美容院様コメントありがとうございます。
もちろんこの記事は、海南島の日本語教師の「我が最愛の胡同(フートン)」への、江蘇省常州市武進区からのアンサーであります。(江南地方では路地は「胡同」ではなく、上海語の「弄堂」という言い方が普通みたいです)。
写真のじいさんは、印鑑屋兼時計修理屋さんです。そうとう手先が器用なんでしょうね。
そして絶対に誠実な仕事をしてそうでしょ。その証拠に、昔っからここで商売しているけど全然儲かってない、みたいな感じじゃあないですか(笑)。
こういう老街には、パール・バックが『大地』で描いた王龍や阿蘭、そしてもちろん阿Qだってまだ住んでいるんだと思います。間違いなく、絶対に。
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観光スポットになっている老街は実は新しい。古い街並みが一掃され、擬古的な、どこも似たり寄ったりの同じような光景が見られるように思います。福州の三坊七巷を最初に訪れたときは、感心したものですがやはり写真のような本当の生活の場ではないのですぐ飽きます。一見古そうな清朝風の民家にスターバックスやマクドが入っていたりするとしらけますわ、ほんま。
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かもめ様、コメントありがとうございます。
古鎮好きなんですけどね、たしかにかもめさんのおっしゃる通りにちょっと残念な感じもある
有名な観光地になっている古鎮は完全に商売の場所になって、王龍も阿Qもいないうえに、土産物屋とレストランばっかり。建物も新しくて。
きれいなんだけど、とても嘘っぽい倉敷の美観地区みたいになっている。
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ガイドブックでは見られないような写真をいっぱい見ることができました。
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