2015.01.17 Saturday
続・山寨の世界 〜 カーネル・サンダースの苦悩
一、大阪・ミナミでの受難
なぜその日、カーネル・サンダースはミナミ(※注1)の町にいたのかと問われても別段理由などはなかったのだ。
ただ、その日は暇があった。だから道頓堀の周辺をぶらぶら散歩していた。ただそれだけのことだ。
その日、日本のプロ野球球団である阪神タイガースが優勝したということ。
阪神タイガースファンは“虎キチ”と呼ばれ、時に大変獰猛な集団であること。
阪神タイガースにはランディ・バースというカーネル・サンダースに似た(似てないと思うが)アメリカ人がいるということ。
日本のプロ野球に何の興味もなかったカーネル・サンダースは、そんなことは何も知らなかった。
←虎キチ。こんな格好で阪神電車に乗り彼らの聖地、甲子園へと向かう。
要するに、その日ミナミの町を歩くのにカーネル・サンダースはあまりに無防備だったのだ。
そして、悲劇は起こるべくして起こった。
「あっ、バースや。バースがおる!!」
一人の虎キチが、カーネル・サンダースを見て叫んだ。
「ほんまや! バースや!」
周りの虎キチたちもカーネル・サンダースを見て次々とそう叫んだ。
日本語は全くわからないカーネル・サンダースであったが、自分がバースと呼ばれる人物と勘違いされていることは直感的に理解できた。
もしカーネル・サンダースがほんの少しでも『みんなの日本語』(スリーエーネットワ−ク刊)(※注2)を使って日本語を学んでいたなら、第1課で学ぶ会話を使って、
「いいえ、わたしはバースではありません。わたしはカーネル・サンダースです。はじめまして、どうぞよろしく」
と、いやに丁寧な日本語で自己紹介し、虎キチの誤解を解くこともできた。
しかし、カーネル・サンダースは日本語を習ったことはない。
やはり、カーネル・サンダースはこの日ミナミの街を歩くのにあまりにも無防備すぎたのだ。
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや!(カーネル・サンダース) バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
バースや! バースや! バースや! バースや!
あっという間に「バースや!」という声に取り囲まれたかと思うと体が宙に浮いた。
胴上げされたのだ。
わっしょい! バース!
わっしょい! バース!
わぁーっしょい!
ドッ、ボーン
こうして、カーネル・サンダースの体は道頓堀に沈んだ。
(そして、数日後・・・)
「ひどい目にあった」
カーネル・サンダースはつぶやいた。
わしとそっくりさんのいる国はこりごりだ、と思った。
「もう日本はいい。次の目的地へ行こう。次は中国だ」
こうしてカーネル・サンダースは日本を発った。
二、カーネル・サンダース、中国へ
「ここには、バースのような、わしのそっくりさんはいまい」
ホテルに到着し、ベットの上に腰を下ろしたカーネル・サンダースはそう思った。
ほうほうのていで中国に来たカーネル・サンダースの心に平安が戻りつつあった。
すると急に空腹感を覚えた。
「腹が減った。何か食べに行こう」
カーネル・サンダースは町に出た。
飲食店が軒を連ねている。
「本場の中国料理がよりどりみどりだ、緑魔子」
しかし、心の平安は短かった。
ここでも悲劇がカーネル・サンダースを襲った。
看板を見たカーネル・サンダースは、その場に崩れ落ちた。
[完]
【追 記】
ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は中国最大のファーストフードチェーン。日本におけるマクドナルド並みにどこにでもある。
中国でKFCを展開するYAM!BRANDSによると“KFC® was the first quick-service restaurant chain to enter China in 1987. Today, KFC is the number one foreign brand in China with more than 4,600 restaurants in nearly 1,000 cities. ”というわけで、どこの町にもKFCがある。
KFCのパクリ看板と言えば、中国全土に800店(2008年の時点)を展開する吉阿婆麻辣烫がとても有名だ。
吉阿婆麻辣烫は吉おばさんの麻辣烫(マー・ラー・タン)という意味であるが、名の知れたチェーン店なのに会社のHPがないところがなかなかに怪しい。
麻辣烫というのは中国の激辛おでんと説明されることが多いが、ここを見るとバリエーションがいろいろあり、必ずしも激辛おでんという説明は当たっていないのではないか。麻辣烫の中では、重慶麻辣烫は大変ポピュラーで、濰坊でも深圳でもここ常州でもあちこちに店や屋台がある。
KFCと吉阿婆麻辣烫の看板がバッティングすると、体の斜め具合まで同じだから素敵な老夫婦みたいになるところがおかしい。
街を歩いていると、いろいろなKFCパクリ看板をみかける。3年前は、オバマ大統領そっくりさんのOFCという店が北京に出没している。
リンクはそのOFCは低調快餐に改名したというニュースだけど、店長の女子学生、やけに可愛いな。んっ? ドラえもんが・・・。
※注1: ミナミは南と同じように「み(低)・な(高)・み(高)」のアクセントで発音してはいけない。関西人は「み(高)・な(低)・み(低)」のアクセントで発音する。
※注2: 日本語教師でこれを使って教えたことがないという人はいないのではないかと思えるほどポピュラーな日本語教科書。各国語版があり世界中で使われている。
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