2015.01.12 Monday
山寨の世界 〜 暗誦はカンニングではありません
【序:はじめに】
山寨(さんさい)とは、コピー、パクリなど知的所有権の侵害をさす中国語である。
日本でも(わたしの記憶では1980年代くらいまでは)「日本人は独創性がない。すぐに欧米のコピーをする」と非難されていた。
大滝詠一は、「この曲は、○○○と○○○と○○○のパクリでしょ」と指摘されたとき、「その3つとあと2曲の5曲から出来てるけど、君は3曲しかわからなかったんだ」と答えた(wikipedia「大瀧詠一」より)。
盗作やパクリとオリジナルに境界線を引くのは難しい。
そんなわけでわたしも、山寨文化を「“中国の文化や工業発展の過程”として肯定的にとらえる」(wikipedia「中国の知的財産権問題」より)意見に全面的に反対するものではないのだが・・・以下、それにしてもやれやれな話を続ける。
【本 文】
さて、3年生の試験、カンニング大量発覚(※注)の続きである。
とにかく不正が疑われる答案があまりにも多いので、インターネット上にアップされている作文と全く同じ作文を書いてきたカンニングが明らかな答案2枚についてだけ中国人のZ先生に相談した。
「インターネット上にアップされている作文と全く同じ作文を書いている学生が2名います。」
ところが、Z先生もそうだが、周りにいた中国人先生も、事態を深刻に受け止めている様子が全然ない。
拍子抜けするというか、なんというか、ここはやはり中国というか・・・。
そして、Z先生は学生に電話した。
「先生、学生は“カンニングしたのではない。教科書に載っている作文を暗記してそれを書いた”と言っています。作文の載っている本を持って教員室に行くといっています」
わけが分からない。彼女らの言い分がまったく理解できない。
・「名前は何ですか?」という日本語にすら答えられない学生が、かように長く高度な日本語の文章をすべて暗記できるはずがない。それに暗記したということの真偽は口頭でテストしてみればすぐに分かる。なぜ簡単にばれる嘘をつく?。
・わざわざ、作文が掲載されている教科書を持って教員室に来るなんてヤブヘビではないか? 不正の証拠を見せようというのであるから。
・そういうのはパクリ、盗作、剽窃というのであって、それは不正行為であるというのは世界の常識、世界共通の認識ではないのか?
はたして、この2人の学生は教科書を持って教員室にやってきた。どうやらほかの授業で使っていた日本語作文の教科書である。
ほら、ここにわたしの暗記した作文があるとばかりにそのページを開いて私に見せてきた。
驚きである。全然盗作という意識がない。
とにかく2人には再試験を実施した。
このあと、キャンパスを歩いていると、ほかの3年生何人かにつかまった。みな試験の結果を聞きたがる。2人の件の話が広まったのかもしれない。
パクリが疑われる作文を書いてきた学生も多い。
「まだ、採点はしていません」
未採点ではあるが、彼女らの書いた作文(答案)を見せながら「ここの文章は、ほかの学生が書いた文章と全く同じです。なぜですか?」と質問する。
学生の答えは決まっている。
「(カンニングしたのではありません。)暗誦したことを書いたからです」
一切を了解した。こういうことだ。
彼女らは盗作や剽窃を「暗記して書いたものだから不正ではない」と言い張る。
(そもそも、試験の内容は作文を書くということ以外通知していないのだから、暗記したというのもおかしいのであるが)
そんな言い訳は、日本人では、いや世界で通用せぬ。
彼女らにワールド・スタンダード、世界の標準というものを、知的所有権というものを知らしめて・・・やらなかった。簡単に引き下がった
ごく簡単な日常会話の日本語すらできぬ彼女らに、そういうのは盗作と言って不正な行為なのだということを納得させるすべを私は知らない。
中国人先生もパクリ作文に別段驚いてなかった。ここはそういう国なのだ。
それより卒業を控えた3年生が、私が不合格の判定を下すことによって卒業できなくなることのほうを心配していた。
郷に入ればGo、Go、郷ひろみ。
再テストした2人の作文以外は、「不正に気付かなかった」「不正はなかった」ということにして全員が合格点になるように甘〜い、甘〜い採点をしておいた。
甘い採点をしたのは、卒業生の学力を低く抑えることで中国の技術が日本に追いつくことを少しでも遅らせようという私なりの高等戦術なのだよ。
中国人民は気づくまい。ふッ、ふッ、ふ。(←うそ)
【まとめ】
パクリを批判されると、中国の人は決まって「パクリではない。オリジナルだ」と言い張る。
メンツ(面子)がそう言わせているんだろうと思っていた。
どうやら、中国人が「パクリではない。オリジナルだ」というのはメンツの問題だけではない。
「何かを見ながら模倣したのではない。自分の頭の中にある(暗記した)ことを表現・発表(製品化)した。それのどこに問題があるのか?」
これは決して言い訳のセリフではなく、真面目にそう思っているような気がしてきた。
わからない…だが、実に面白い。わたしはガリレオの湯川先生になった。
中国4000年。文化の奥も深ければ山寨(さんさい)文化の奥も深いのである。
もっとも、こういうのは普通「奥が深い」ではなく「根が深い」という。
※注:カンニングが困るのは次の2点。
まずは、学力が正確に測れない。これは誰でも理解できるだろう。
もう一つ。それはテスト結果というのは教える側の重要な反省材料になるのである。教える側は正答と誤答を分析することにより、次の授業の指針とするのだ。ときどきテストの「教える側の反省材料」という役割を忘れて「アホか。なんでこんな問題もできへんねん」などと言いながら採点作業をしている先生がいるが、アホなのは学生ではなく「こんな問題」も教えきれない(周知徹底できない)先生のほうかも知れないのである。えっ? わたし? もちろん口に出さないけど「アホか。なんでこんな問題もできへんねん」と心の中で思いながら採点してますよ。
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