『中級から学ぶ日本語』『上級で学ぶ日本語』を読む

2015.04.23 Thursday

日本語教育能力試験対策：「動詞」と「て形」

外国人に日本語の文法を教える。
日本語は言語の中でも発音は平易だが、文法は難しいとされている。
その複雑な文法をいかにシンプルにして外国人に教授するか。
その一つの結論が、『みんなの日本語』『新日本語の基礎』（※注１）で使われている文法だ。

その大きな特徴は動詞と助動詞や助詞をセットにして「○○形」として教えることにある。
わたしたちが習った学校文法の、未然形・連用形・終止形・連体形といった言葉は使わない。
例えば次のようになる。
　ます形：勉強します、食べます
　て　形：勉強して、食べて
　ない形：勉強しない、食べない
　辞書形：勉強する（する）、食べる

『みんなの日本語』『新日本語の基礎』では、動詞は「ます形」から学習に入る。
最初から、自然で相手に失礼のない会話ができる。
例えば、
　甲：あなたは何をしますか？
　乙：わたしは勉強します。

　甲：あなたは何を勉強しますか？　
　乙：わたしは日本語を勉強します。

これが辞書形（＝基本形、終止形）だと、明石家さんまがよくギャグにしていた、台湾人クラブのホステスの日本語みたいになってしまう。

　甲：あなたは何をする？
　乙：わたしは勉強する。

　甲：あなたは何を勉強する？　
　乙：わたしは日本語を勉強する。

そして、動詞の否定、過去、過去の否定は次のようになる。
　・否　定＝ます→ません：勉強しません、遊びません
　・過　去＝ます→ました：勉強しました、遊びました
　・過去の否定＝ます→ませんでした：勉強しませんでした、遊びませんでした

動詞の活用を、非常にシンプルな形にして教えていることが分かるでしょ。
これで学習者の会話の幅が一気に広がる。

「て形」は『みんなの日本語』『新日本語の基礎』の第１４課で出てくる。
「て形」を学校文法で説明すると、動詞・連用形＋助詞・て（で）。
動詞の活用がやや複雑なので、学習者にとっての最初の難関だ（※注２）。
「て形」は第１４課では、相手への依頼や指示の表現として出てくる。
【例】　勉強してください、食べてください
これを、「動詞・て形＋ください」という文型として教える。

動詞は、Ⅰグループ／Ⅱグループ／Ⅲグループの３種類に分ける。学校文法の分類だと５種類だからこれもシンプルになっている。
　・動詞Ⅰグループ　＝　五段活用動詞
　・動詞Ⅱグループ　＝　上一段活用動詞、下一段活用動詞
　・動詞Ⅲグループ　＝　カ行変格活用動詞「来る」、サ行変格活用動詞「する」

それでは、動詞・ます形から動詞・て形への活用の仕方。

まず動詞Ⅱグループから。これは平易。
　・ます→て：食べます→食べて、見ます→見て、起きます→起きて

つぎ動詞Ⅲグループ。Ⅲグループは「来る」「する」の２つしかないから単純に覚えるだけ。
　・来ます→来て、します→して（勉強します→勉強して）

最後にⅠグループ。これが複雑なのだ。『みんなの日本語』『新日本語の基礎』では一覧表でまとめているが、ここではわたしのというか、日本語教師養成講座で教わった教授法を書く。
　・い・ち・り→って
　【例】言います→言って、待ちます→待って、切ります→切って
　・に・び・み→んで
　【例】死にます→死んで、呼びます→呼んで、読みます→読んで
　・き→いて
　【例】聞きます→聞いて
　・ぎ→いで
　【例】泳ぎます→泳いで
　・し→して
　【例】出します→出して

「死にます→死んで」のところで、「死んでください」なんて依頼の表現にすると軽く笑いがとれる。
そして、例外を一つ追加する。「行きます」が「行って」になる。これが例外。

以上、Ⅰグループ動詞の「て形」を、例外を除いて一気に書くと「いちりってにびみんできいてぎいでしして」。
これにきらきら星のメロディー（Twinkle, twinkle, little star♪）をのせて「いちりって♪ にびみんで♪ きいて♪ ぎいで♪ しして♪」と歌って覚える。
きらきら星以外にもロンドン橋でやるとか、バリエーションがいくつかある。

「動詞・て形」を学習すると、例えば「動詞・て形＋います」で「勉強しています」「食べています」のように進行形ができたりして、学習者の日本語表現の幅がここから大きく広がることになる。

ところで、うちの大学でもそうだけど、中国の大学では日本語文法を『みんなの日本語』『新日本語の基礎』の文法ではなく、日本の学校文法に準じて教えていることが多い。
だから、動詞は活用によって５種類に分けるし、活用も未然形・連体形・終止形（あるいは基本形）・連体形・仮定形・命令形で教える。
学校文法は、日本人のための文法だから、学校文法で日本語を習うのは中国人（外国人）には負担が大きい。

中国でも民間の日本語学校の多くは『みんなの日本語』で教えているのに、何で大学は今だに負担の大きい学校文法で教えているのだろう？
だから『みんなの日本語』『新日本語の基礎』に慣れた目で学生の使っている文法の教科書を見ると、なんて複雑で難しいことやっているのだと感じてしまう。
形容詞、形容動詞だって、「い形容詞」（大きい、新しい…）、「な形容詞」（きれいな、静かな…）の名称のほうが分かり易いではないかとも思う。
形容動詞なんか、日本の中学生だって形容詞と動詞が頭の中でミックスされて、わけが分からなくなっている生徒がかなりの確率でいる。

中国の大学では学校文法で日本語を教えている。
これ、日本人教師の多くが中国で感じる（驚く）疑問の一つ。不思議だ。

※注１：『みんなの日本語』『新日本語の基礎』はともに、スリーエー出版社の発行。『みんなの日本語』は、学生や会社員、一般の人向け。世界でもっとも使われている日本語教材である。副教材も驚きの充実。
『新日本語の基礎』は日本に来る技術実習生向けで、登場人物がアジアや南アメリカの国の人だったり工場内での会話が多い。
この二つのテキストは、学習対象者が違うだけでカリキュラムは全く同一。
※注２：難関とされているがわたしの実感では意外とつまずかずに通過する。つまずく学習者は、「ます・ません・ました・ませんでした」の段階で、すでに頭が混乱してつまずいている。