2015.02.03 Tuesday
日本人はなぜ英語が話せないのか? (その1)
日本語教師、3年目である。
1年目:濰坊。技能実習生送り出し機関での日本語指導。実習生はここで約4か月間初級の日本語を学び、それぞれ日本の実習先へ向かう。
2年目:深圳。民間の日本語学校。学生は初級レベルから上級レベルまで。アニメなどの日本のサブカルチャー好きから、日系企業に勤めている人、ご主人が日本人という主婦、日本人相手のカラオケやクラブ等のお店で働いているシャオジエから現地駐在日本人の愛人ちゃんまでいろんな学生がいる。
3年目:ここ。常州機電職業技術学院の商務日本語科。職業技術学院というのは、下の図を見てもらえればわかると思うが、3年制の職業教育の高等教育機関である。ここではひとくくりに大学としてあつかい、話を進める。
濰坊から深圳に行って、そこの学生の日本語レベルに特にギャップは感じなかった。
日本語学習1か月目の学生はやっぱり日本語学習1か月目の日本語力であり、2か月目、3か月目、4か月目の学生もまたしかり。
中級レベルになるとかなり達者に日本語をあやつる学生も多くなる。とくに日本人相手の商売をしているシャオジエちゃんの中には本当に達者な口をきく子がいる。
上級になると日常会話はほぼ全員問題なくできる。
そして、ここに来て驚いた。
学生の日本語力が弱すぎる。
1年生は9月から日本語を習い始めたばかりなので何もわかっていないのは当然であるが、2年生18人中なんとか会話が成立するのは1人だけ。
3年生は34人中これもなんとか会話が成立するのが数人。ほとんどの学生が、私の言っていること(日本語)が聞き取れていないし、自己紹介すらまともにできない。
では書く力はと思っても、日記を書かせたら「朝起きます。我は朝ごはんを食べます」なんて、日本語学習1、2か月目程度の稚拙な文章で、「わたし」のように超基本の単語が「我(wo)」などと中国語になったり、過去形が使えず現在形で書いてきたりする。
わたしは2年生は中級レベルの日本語力があり3年生は日本語上級者レベルだろうと勝手に思い込んでいた。
実際は、2年生も3年生もほとんど日本語力に変わりなく、そしてほとんどの学生は超基本レベル(日本語学習2か月目くらい)の会話能力で止まっている。
ここは、高等教育機関である。日本語科である。学んでいる学生は、入学試験を突破して入ってきたのである。
なんでやねん。
驚いたわたしは、深圳の日本語学校時代の同僚、今や山東省濰坊市の名門濰坊学院で教鞭をとるH先生に様子をきいた。
「こっちの学生の日本語能力が驚くほどヒドイんだけど、そっちはどう?」
H先生:
同じく全然駄目ですね。
全学年、何かしらの授業持ってましたが、上級生でコミュニケーションとれるのが1割以下、他は授業そのものが聞き取れてません。
感覚としては青島の職業訓練校時代(注:H先生は深圳の前は青島で日本語を教えていた)のティーンズのほうができてた感じ。担任教師がいて、宿題も厳しく躾けられてた分覚えてた。また、青島だと「山口銀行杯スピーチコンテスト」があってそれなりに手伝ったりして、目の前には日本語話す学生がいつもいたんだけど、この大学に来て皆無。
なんだ?と思い、色々聞いてるとまぁこれまでの日本人教師も「何やっとんじゃ?」な内容。
学生も「先生が日本語で話すから何も学べません」というわけで、日本人教師の授業は無視という状態だったようです。
彼らにとって日本人は「面倒臭い」存在でしかないのだろうか・・・と思いましたね。
それで、1、2年生は学校の指定した教科書は無視して、「去年のことは知らん。知らないことは教えるから今日から学べ。」と基礎単語からやり直してました。
今では「H先生の授業は単語も文法も聴解も全部勉強できます。やめないでください。」と言ってくれてます。
基礎が終わってしまった3、4年は成す術なしです。彼らも今さら基礎学習を面子上やりたくないみたいですし。
民間の日本語教育機関は、短い期間で学生に実用的な日本語力をつけさせることにかなりの成果を上げている。
しかし、大学ではほとんどできていない。
民間の教育機関でできることが、なぜ大学という高等教育機関でできないのか?
わたしも、H先生も深圳で一緒だったわけで、どのくらいの期間で学生はどのくらいの日本語力をつけるかよく知っている。
だから、大学で教えてみて学生の日本語力の低さに驚き危機感を感じた。
ここでまず明らかになった問題の一つは、民間の日本語教育機関の教育力を知らない日本人教師の中には、大学側に言われるまま平気で力のつかない授業を行っている人もいるということ。
そして、日本語教師LIFEセンセーのように自らの指導力不足を棚に上げ、彼らが日本語ができないのは努力が足りないのだと学生の責任にする。
中国人先生も中国人先生で、このような現状に何の危機感も持っていないようである。力のつかない授業しか提供できない民間の教育機関ならとうに倒産している。(※注1)
しかし、教師だけの責任にするわけにはいかない。
なぜ彼らは、日本語科に籍を置き長い期間日本語を学んでいるのに日本語ができないのか?
そう考えると、日本人がなぜ英語が話せないのかというここと同じ問題が見えてくる。
次回から、なぜ日本人は英語ができないのかということを、学校における英語教育の問題として考えてみたい。
ところで、「日本語ができなくて一番困るのは学生自身でしょ?」と思いながらこの文章を読んでいる人も多いだろう。
いや、違う。
わたしが一番困っている。
まず仕事、つまり授業の楽しさがない。ほとんどわたしの言っていることが分からない学生を相手に、つまりコミュニケーション・ブレイクダウン(※注2)の状態の一方的な授業をするのは大変に苦痛なのである。
そして、この学校、日本人教師はわたし一人だけ。周りに日本語の話し相手が中国人先生以外いないのである。
日本語ができる学生が増えるということは、要するにわたしの話し相手が増えるということなのだ。
また、いざというときの通訳としても使えるのである。
「○○を食べたいんだけど、どこのお店がおいしい?」
「○○を買いたいんだけど、どこに行ったら安く買えるの?」
こんな簡単な会話すら、話し相手になってもらえる学生は一人もいない・・・。
※注1:「中学・高校・大学と英語を学んでも全然使えない」と言われる英語を、何の疑問も感じることなく教え続けている日本の英語の先生も似たようなものである。
※注2:レッド・ツェッペリンじゃないよ。コミュニケ―ションがとれてない状態を指す用語。
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